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自作スピーカーと測定  * 冬うさぎの晴耕雨読な日々 *

自作スピーカーと測定に関するブログです。

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この一連の記事で言いたかったことは、こういうことです。

社会人になって間もない頃、会社の先輩から言われた言葉がいまだに忘れられません。

 「新しいことを始めるときには、まず先人の業績を勉ぶのが鉄則じゃ!」

オーディオに限らず、個人が「独自研究」を披露する場面を目にすることがあります。もちろん独自研究自体は素晴らしいことです。独自研究がなければノーベル賞を受賞するような優れた研究も生まれません。

ただし独自研究を行うに際しては「まず先人の業績を学ぶこと」を決して怠ってはいけないのです。この鉄則を守らないと、研究者として不幸な結果を見ることになります。

ということで、先人の業績をひとつ挙げておきます。故Linkwitz氏の42年前の論文です。

S. H. Linkwitz, "Passive Crossover Networks for Noncoincident Drivers"
J. Audio Eng. Soc., Vol. 26 No. 3 pp. 149-150 (March 1978)


***

毒舌ついでにもうひとつ。

雑誌のライターや評論家を無闇に「先生」と呼ぶ風潮が私は好きではありません。

 【ライター・評論家】 - 【出版社】 - 【読者】

という構造において、一番偉いのは誰か?

それは【読者】に決まってます。

だって、”お客様は神様です”って言うでしょう?



(この章おわり)


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これまでの記事で、

・ クロスオーバーネットワークの設計とは、所望のAcoustic slopeが得られるようなフィルター回路を設計すること

と書きました。では、具体的にどうすればよいのかというと、

① ユニットの周波数特性(音圧特性、位相特性)を測定する
② Electrical slope(フィルターの伝達関数)求めて①と掛け合わせる


をやれば良いのです。①は詳細は別項に譲りますがインパルス応答測定を行えば家庭でも疑似無響室測定が可能ですし、そのための投資は3万円ほどで済みます。ただし、測定ソフトウェアの要件として

・ Gated measurement(時間軸上で部屋の反射成分を除外する)ができること
・ 測定結果をテキストファイルにエクスポートできること

があり、残念ながらこれを満たす日本語ソフトウェアは存在しません。MLSSAなどの高価な市販ソフトウェアを除けば、現状ではARTAが最も安価(79EURO)で信頼性の高いソフトウェアと言えます。

②の操作は電卓やExcelではほぼ不可能で、VituixCADのような統合設計ソフトウェアを使うのが普通です。こちらはフリーウェアです。

どうですか?

  めんどくさい?

  敷居が高い?

まあ、そうとも言えますが、なぜ私がしつこく拘るかというと、実際にやってみると測定とシミュレーションによる設計はとても面白いのです。さらに、Scan SpeakやPeerless、SB Acousticsといった世界のユニットがスピーカー作りの選択肢に加わるというメリットもあります。マスターブックの序章に書いた「これまで知らなかった新しいスピーカー作りの楽しさを知ることが出来る」とは、このことです。

さて、クイズの答です。こちらは拙宅で測定したScan Speak R2604/8320の周波数特性ですが、低域は黄色の破線で示した12dB/octに近いスロープで減衰しています。

R2604

つまり、

 ・6dB/octのAcoustic slopeはほぼ実現不可能

 → フィルターを挿入する余地が無いので当然無理ですね。6dB/octを標榜する市販スピーカーは数多くありますが...

 ・12dB/octのAcoustic slopeはごく限られたユニットでしか実現出来ない

 → こちらは少し説明を要します。海外ではWaveguideと6dB/octのフィルターの組み合わせで12dB/octのAcoustic slopeを実現している作例があります。ただしWaveguideの市販品が少ないこと、Waveguideとツィータの適合性が難しい、などハードルが高い技術ですが、いつかトライしてみたいものです。



(つづく)


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前の記事で、マルチウェイスピーカーの特性は

Acoustic slope = Electrical slope(フィルターの伝達関数) × ユニットの周波数特性(音圧特性、位相特性)

で考えるべきことを指摘しました。音圧特性がこの関係に従うことは容易に理解できるでしょう。

では、位相特性はどうでしょうか?

それは、たとえばElectrical slopeが12dB/oct、ユニットの周波数特性が12dB/octとすると、その合成特性である24dB/octのAcoustic slopeの位相特性は理論的な24dB/octのフィルターと同じ位相特性を示すのか?

という疑問です。

私の知る限り、この疑問にズバリ答えている書籍はマスターブックしかないのですが、答は

 YES

です。

つまり、ユニットとフィルターの特性がどうであれ、最終的なAcoustic slopeが24dB/octであれば位相特性もそれに従うのです。

実験的な証拠を示します。

これはうちのIlluminatorのクロスオーバーネットワークです。インピーダンス補正やノッチフィルターが入っているので少々分かりにくいですが、LPFが12dB/oct、HPFが18dB/octのフィルター回路になっています。一見すると変則的なネットワークに見えますが、これがユニットの特性に加わるとウーファー、ツィータともに24dB/octのAcoustic slopeになります。

Illuminator_NW480

WF_TWスロープ


このときの合成特性は、ウーファーとツィーターが正相接続でフラットになります。

L=150cm_Normal_480


またウーファーとツィーターが逆相接続のときには深いディップが生じます。

L=150cm_Reverse_480


つまり、LPFが12dB/oct、HPFが18dB/octといった一見変則的なネットワークであっても、ユニットの特性を含めたAcoustic slopeが24dB/octであれば、その位相特性は理論的な24dB/octのフィルターと同じになることが分かります。

まとめると、

  スピーカーの特性(音圧特性、位相特性)はAcoustic slopeで決まる

ということです。したがってクロスオーバーネットワークの設計とは、所望のAcoustic slopeが得られるようなフィルター回路を設計することに他なりません。

じゃあ、どうすれば良いのか?は次の記事で述べたいと思いますが、その前にクイズです。

実は、

 ・6dB/octのAcoustic slopeはほぼ実現不可能
 ・12dB/octのAcoustic slopeはごく限られたユニットでしか実現出来ない

という厳しい現実がありますが、これは何故でしょうか?

簡単ですね。



(つづく)










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では、Acoustic slopeとは何かというと、

Electrical slope(フィルターの伝達関数) × ユニットの周波数特性(音圧特性、位相特性)

となります。あたりまえですね。

ユニットの音圧特性が平坦でないことは誰でも知っていますが、位相特性の影響はどのぐらいあるのでしょうか?

以下は、拙宅でARTAで測定したウーファーとツィーターの周波数特性と位相特性です。どちらのユニットも周波数の上昇とともにどんどん位相が遅れ、200~20kHzの範囲でほぼ360度位相が回っていることから、ユニットの位相特性は決して無視できないほど大きいことが分かります。

なお18W8531G00の位相が7kHzで急変しているように見えますが、これは位相遅れが-180度を超えたときに一周回って表示されるというグラフ上の都合で、実際の位相は連続的に変化しています。

Scan-Speak 18W8531G00の周波数特性と位相特性
WF_Phase

Scan-Speak R3004/662000の周波数特性と位相特性
TW_Phase

こういったデータを見れば、マルチウェイスピーカーの特性をネットワーク単体の伝達特性だけで議論するのは意味が無いことがよく分かるでしょう。

最初に示した、

・6dB/octのネットワークは位相ひずみがなく、元の波形を再現できるので理想的
・12dB/octのネットワークは理論的にはウーファーとツィーターを逆相接続する

といった議論はこう言い換えるべきなのです。

・6dB/octのAcoustic slopeは位相ひずみがなく、元の波形を再現できるので理想的
・12dB/octのAcoustic slopeは理論的にはウーファーとツィーターを逆相接続する



(つづく)



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いわゆる「スピーカーユニットの周波数特性」には2つの種類があります。

Acoustic slope:スピーカーユニットから放射される音圧の周波数特性
Electrical slope:スピーカーユニットの端子に加わる電圧の周波数特性


我々が音楽を聴く上でどちらが重要か、言うまでもないでしょう。

言っておきますが、Acoustic slopeとかElectrical slopeといった概念は私が独自に考え出したものではなく、広く世界(日本以外)で知られている概念です。ググってみれば分かります。

Acoustic_slop360
「自作スピーカー 測定・Xover設計表マスターブック」より引用

Electrical slopeとはフィルターの伝達関数そのものです。ただし、アナログチャンデバの場合は問題ないのですが、クロスオーバーネットワークの場合はフィルターの負荷となるユニットのインピーダンス特性が単純な抵抗ではない点に注意を要します。

8Ωとか4Ωといったユニットの公称インピーダンスからフィルター定数を計算する「ネットワーク計算式」を使うのは最悪です。この方式に従うと、ALTEC 416-8Bも、Scan-Speak 18W8531G00も、Fostex FE83NVも、みーんな同じフィルター回路でオッケー!というトンデモナイ結論が導かれるのです。

MJの安井章氏の一連の記事はこの点に焦点を当て、インピーダンス特性を等価回路で表現することにより、より正確に伝達関数を求めるというアプローチだと私は理解しています。ただ、Speaker WorkshopやVituixCAD、LspCAD、SoundEasyといったスピーカー統合設計ソフトウェアはすべてユニットのインピーダンスカーブ(実測値)をZMAファイルとして読み込んで伝達関数を計算していますので、特に新しい考え方というわけではないと思います。

いずれにせよ、雑誌の記事にしろ、ウェブ上の情報にしろ、ユニットの周波数特性/位相特性に言及していない記事は、インピーダンス特性(殆どの場合は公称インピーダンス)から求めたElectrical slopeでクロスオーバーネットワークの特性を論じていると思われます。

実は、いまだにこういった議論に終始しているのは世界でも日本ぐらいで、私の手元にあるLoudspeaker Design Cookbook 5th edition(1995)では、既に全面的にAcoustic slopeにもとづくネットワーク設計に移行しています。



(つづく)



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